第3章 黒の時代(本章)
葉月が出て行ったら直後
治ちゃんは笑い出した。
「いやー本当に、葉月ちゃんは判りやすいね」
「本当ねー。
見てるこっちが恥ずかしくなる」
治ちゃんはちらりと此方を見て
頬杖をつきながら「君も大概だがね」と言った。
私は少し考えてから
治ちゃんには隠し通せない事がわかっていたので
「この事は私と治ちゃんの秘密だよ」と言った。
治ちゃんは
少し悲しそうな笑みを浮かべた。
「私ね、葉琉ちゃんの
何でも真っ直ぐで素直な所が
羨ましいと思うことがあるのだよ。
この間の銃撃戦の時の涙も
昨日の芥川君の時も
君はとても綺麗な瞳をしていた」
私は黙って治ちゃんの話を聞いていた。
「その純粋な瞳を汚してしまいたいと思った反面
同時に、守りたい。とも思った。
可笑しな話だよ。
自分の命は直ぐにでも消えればいいと思うのに
守りたいと思うものがでてくるなんて。
私にも理解不能だよ」
治ちゃんの顔には
まだ薄い笑みが張り付いている。
「……治ちゃん、私」
「まぁ、中也の事が好きって云う趣味は最低だと思うけどね」
私の言葉を遮るように治ちゃんは言った。
「好きだなんて言ってないじゃん!」
「顔に書いてあるよ」
治ちゃんは意地悪な笑顔に変わっていた。
そのまま、治ちゃんの揶揄いは続いた。
結局、あの時の治ちゃんの話は何だったのか
今の私には判らなかった。