第3章 黒の時代(本章)
「安吾の鞄。
上から煙草、使用された携帯雨傘、戦利品の骨董時計の包みが詰まっていた。
安吾は自前の車を運転して取引現場に向かった筈だけど
ではあの傘は何時使われたのだろう。
取引の前じゃない。
傘は包みの上に置かれていたからね。
あの傘の濡れ方は
たっぷり三十分は雨に打たれていた筈だよ。
それだけの雨の中に居たにしては
安吾の靴やズボンの裾も乾いて居た。
取引が八時で我々に会ったのが十一時。
取引後の三時間で使ったなら
乾くには時間が足りない」
「着替えを持ってたんじゃ?」
何か、否定しなければならないと思い
私は言葉を発した。
「それはないよ。葉琉ちゃん。
鞄の中にズボンや靴の着替えは無かった
入るだけの空間も無かった」
治ちゃんにあっさりと返され
なにも言えなくなった。
「では真実は」織田作が治ちゃんに詰め寄る。
「私の予想では
あの骨董時計は取引品じゃあない。
取引にはいかず、雨の中誰かと会い
三十分くらい会話をしてから
残りの時間を潰して帰った」
「如何して、誰かと会っていたってわかるの?」
「安吾のような情報員は
しばしば雨の降っている路上を
密会場所に選ぶことがあるんだよ。葉琉ちゃん。」
治ちゃんが何を言おうとしてるのか
私も気が付き始めた。
たぶん、織田作も判っているだろう。
「織田作、気を付けろ。
何か一つでも新たな事態が起これば
君一人の手には負えなくなってしまう。
ここの始末は私達がやっておくよ。
安吾を頼む」
「ああ」
治ちゃんと織田作が視線を交わし
歩き出そうとしたその時だった。
「治ちゃん!」
襲撃者が起き上がっていた。