第15章 DEAD APPLE
運転手を失った車は暴走し、電柱に激突して爆発する。地面に転がった衝撃と、届く爆風に、敦は躰を縮こませる。鏡花は身軽に着地し、素早く短刀を構えた。鏡花の視線の先には夜叉白雪。夜叉は鏡花に襲いかかり攻防が始まった。刀同士が激しく打ち合う。
鏡花を援護しようと、敦は震える手で国木田から渡された銃を構える。しかし、銃は不発に終わる。
「あ、安全装置か……」
敦は慌てて慣れない銃器の扱いに戸惑う。急がなきゃ、と思ったところで鏡花の大声が響いた。
「行って!」
鏡花は夜叉白雪の刃を受け止め乍「早く!」と叫ぶ。
見れば、鏡花と夜叉白雪は鍔迫り合いをしていて、鏡花が押し負けそうになっている。このままだと鏡花が斬られるのは時間の問題だ。
「うわあああああ!」
考えらより先に声が出ていた。頭には鏡花を助ける事しかない。敦が再び銃を構えた時。
黒い物体が敦の視界を横切る様に飛んできて、そのまま、夜叉白雪に激突する。
夜叉白雪が弾き飛ばされたお陰で、鏡花に逃げる隙と体勢を整える時間が与えられる。だが、その黒い物体もまた、何かに吹き飛ばされてきた様に見えた。
敦は夜叉白雪に向けていた銃口を黒い物体に移動させる。
黒い物体ーー黒い外套に包まれた短躯がもぞりと動いた。黒布の塊のようであった男が躰を起こし、鋭い眼差しで敦を射る。
「お前…芥川」
呆然と敦が呟いた。
其処にいたのはポートマフィアの黒き禍狗ーー芥川龍之介だった。