第15章 DEAD APPLE
国木田は葉琉に歩み寄る。
「葉琉、いつまで腑抜けている!お前が動かなくて如何するんだ!」
立ち尽くしている葉琉の肩を、国木田は揺さぶる。国木田には葉琉の動揺が手に取るように判っていた。葉琉の手に握られている、震える端末を一度奪い取り、目の前に押し付ける。
「お前にしか出来ない事があるだろ」
葉琉の視界には猫のストラップが入った。そう、葉月が鏡花へ渡して、太宰を通して、今、葉琉の手にある。葉琉は大事そうに端末を受け取り、顔を上げる。
「行ってくる」
国木田は黙って頷いた。
「奴の能力では手帖サイズを超えた武器は作り出せん。俺が引き付けている間に、裏口から逃げろ」
走り出そうとした葉琉に国木田が何かを投げて寄越した。「遣え」と言われよく見ると鍵だった。裏にある武装探偵社が所持する単車の鍵だ。
「急げ!」
緊迫した国木田の声に、葉琉はコクリと頷き走り出す。敦と鏡花も追うように駆け出した。
●●●
葉琉と敦と鏡花が武装探偵社から逃げ出したころ。
坂口安吾は拳を握りしめていた。
無数のモニターが目まぐるしく動き、背広を着た多くの人間が画面や机に向かう。慌ただしい声とコンピュータを操作する音が重なる。ーー異能特務課。
その指令席で、安吾は立ち上がる。先程まで繋がっていた武装探偵社、国木田独歩、萩原葉琉との通信は切れてしまった。再び通信が繋がることを祈るのは徒労だろう。幸い、葉琉の端末に此処の場所を示した地図は送れた。彼女は必ず来てくれる。
安吾は職員に問いかけた。
「異能者ナンバーA5158の居場所は掴んでいますか?」
「はい」
「メッセージをお願いします」
「なんと伝えますか?」
霧に包まれたヨコハマの画像を見ながら、安吾は言葉を紡ぐ。もはや、猶予はない。思いつめた声で告げた。
「……葉月さんの居場所は掴んでいます。教授眼鏡に借りを返せ、です」