第15章 DEAD APPLE
人のいない、時間が停止したような夜の街を、一台の車が乱暴に走り抜ける。鏡花が運転するその車の助手席には、怪我をした左脇腹をおさえる国木田が座っている。
「葉琉」
国木田は後部座席にいる葉琉に声を掛ける。敦も葉琉の横で心配そうな表情を浮かべた。
「説明しろ」
窓の外へ向けた視線を外さない儘、葉琉は重い口を開いた。
「これは、澁澤龍彦の仕業。この霧に触れると異能は分離して、持ち主を襲う」
「何故、お前はそんなことを知っている?」
「……調べた。治ちゃんがいないんだもん。それを担う情報が必要でしょ?」
嘘だ。葉琉は調べたわけではない。だが、いまの国木田達には葉琉を疑う余裕は無かった。「じゃあ……」と敦がポツリと呟く。
「連続自殺の理由って……」
「異能者は自殺したんじゃない。自分の異能に殺されたの」
葉琉の言葉に、三人は押し黙る。だが、嘘だと断じる事は出来なかった。現に、国木田は自分の異能に襲われている。敦達も先刻、夜叉白雪を見ているのだ。なにより、三人は今、異能力を遣う事が出来ない。"分離した"と云う葉琉の表現が適切であった事を示した。
同時に、三人は別の疑問に直面する。葉琉は確かに、夜叉白雪に向かい氷を出していた。あれは異能力で間違いない。三人を代表するように国木田が尋ねた。
「ならば、何故お前は異能力を遣える?」
葉琉の視線は外から自分の手に移る。握り、開き、何度か繰り返す。「葉琉さん」と呼ぶ敦の声で、我に返ったように手の動きを止めた。
「私の異能は……私だけの物じゃない、から……」
何かを堪えるようにぎゅっと唇を噛む葉琉に、敦はそれ以上何も聞かなかった。国木田も何かを察したのか、それ以上の質問はしなかった。
黙り込む葉琉達に、国木田は告げた。
「とりあえず、探偵社へ急げ」