第15章 DEAD APPLE
狭い通路には、薄汚れた太いダクトが幾何学模様を描いて天井と壁を入り乱れる。照明もほとんど無い、街の裏側とでも云うべき薄暗い場所だ。葉琉達は音を立てて金属質の床を走り、通路の奥のくぐり戸へ進む。
鏡花、敦、国木田と先にくぐり戸の向こうへ行かせ、後ろを警戒していた葉琉も後に続く。最後に、金属でできた格子状の扉を下ろす。これで、簡単には後を追ってこられないはずだ。
閉まった扉に安心したのか、国木田が体制を崩した。
「国木田君!」
慌てて支え、その場に座らせる。敦も慌てて駆け寄り、しゃがみ込んだ。鏡花は何かに気付いたように、何も云わずに先へと走って行った。
何かあれば、鏡花ならちゃんと戻ってくるだろうと信じ、先ずは国木田の応急処置に入る。銃で撃たれた様だが、弾は貫通している。
「大丈夫ですか?何があったんです」
敦が心配そうに国木田に尋ねると、国木田は切羽詰まった眼差しを敦に向ける。しかし、その問いに答えたのは国木田ではなく葉琉だった。
「国木田君を襲ったのは独歩吟客…でしょ?」
国木田は何故判ったと云わんばかりに目を見張り、敦は「まさか…自分の異能に……?」と硬直した。
「葉琉、何を知っている?」
国木田が葉琉に鋭い眼光を向けるのと同時に、葉琉の背後で堅く閉じたはずの扉が散り散りに砕けた。
「「「!」」」
切り刻まれた扉の向こうにはーーー夜叉白雪の姿が見えた。その額には、見覚えのない赤い結晶が輝いている。
夜叉白雪と対峙するように向かい合う葉琉。国木田を敦に任せ、時間を稼ぐ心算だ。敦達が進もうとしていた先から、車のブレーキ音が聞こえてきた。見れば、向こうの路地に一台の車両が停まっている。車両のドアは開けっぱなしで、運転席には鏡花が見えた。
「乗って!」
鏡花の声が聞こえ、葉琉も「国木田君、敦君、走って!」と叫ぶ。二人を援護する様に氷の礫を夜叉白雪に向かって飛ばす。しかし、礫は夜叉の剣で切り落とされた。飛んでくる斬撃を躱し懐には飛び込まず、あえて距離を取り牽制する。車に乗り込んだ敦が「葉琉さん!」と叫ぶ。二人を追う様に、葉琉も車に飛び乗った。ドアを閉めたと同時に、鏡花は車を発進させた。