第15章 DEAD APPLE
「つまり」と社長が口を開く。
「不思議な霧が出現したあと、各国の異能力者が、皆、自分の能力を使って死んだという事だな」
社長の言葉を聞き、賢治が国木田を見る。
「この霧に何らかの原因があるわけですか?」
国木田は軽く首肯した。
「確認されているだけでも、同様の案件が一二八件。おそらくは五〇〇人以上の異能力者が死んでいるでしょう。異能特務課では、この一連の事件を、【異能力者連続自殺事件】と呼んでいます。……自殺といえば」
国木田は視線を敦に向ける。
「太宰の阿保はどうした?」
「……新しい自殺法を思いついたそうです」
「あの唐変木が!」
国木田の叫び声が響いた。
敦がこってりしぼられている二つ隣の席で、葉琉は頬杖をついて考えていた。あれは六年前だったか。まだ太宰と葉琉がマフィアにいた頃だ。太宰が何かを言っていた様な…そうだ、『リンゴ自殺』。あの時、太宰は確かそう呼んでいた。確か犯人はーー
「で、この件がウチとどう関係してるンだい?妾らも異能力者だから気を付けよう、なんて話じゃァないンだろ?」
与謝野の言葉で我に返った葉琉は国木田に視線を向ける。国木田は神妙な顔で「異能特務課からの調査依頼です」と云った。
「この連続自殺に関係していると思われる男が、このヨコハマに潜入しているという情報を得て、我々にその調査、及び確保を依頼してきました。……これがその男です」
切り替わった画像をみて葉琉は目を見開いた。先刻、自分の記憶を呼び覚ましている時、この男が浮かんで来たからだ。
「澁澤……龍彦…」
「葉琉、知っているのか?」
思わず口を出てしまった名前に国木田が反応する。葉琉は慌てて首を横に振った。訝しげな反応を見せた国木田だったが話を進めた。
「澁澤龍彦、二九歳。わかっているのはなんらかの異能力者である事と、蒐集者という通称だけです」
会議室の灯りが点くと、社長が告げた。
「探偵社はこれより、総力をあげて、この男の捜査を開始するーー」