第14章 【SS】慰安旅行
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葉琉が目を覚ますと外は明るくなってきていた。何時部屋に戻って来たかも、布団に潜ったのかも記憶にない。与謝野、ナオミ、鏡花も眠っていた。二日酔いだろうか、ほんのり頭痛がする。目が冴えてしまった為、温泉にでも入ろうかと思い部屋を出た。
温泉に続く渡り廊下を歩いていると、中庭に人影が見えた。葉琉はその人影にこっそりと近寄って行く。
「わっ!」
「!?一寸、葉琉。驚かさないでくれ給え」
太宰は胸を抑えて葉琉に言った。
「ごめんごめん。治ちゃんを見たら驚かしたくなった」
えへへと笑う葉琉に太宰は少し拗ねた顔をした。葉琉は太宰の横に座る。
「こんな処で何してるの?」
「それはこっちの台詞だよ。もう酔いは醒めたのかい?」
「酔い?」
何も覚えていない葉琉はキョトンと太宰を見上げる。太宰はふっと笑うと「何でもないよ」と葉琉の頭を撫でた。
「温泉に行く心算じゃなかったのかい?」
「んー。治ちゃんが此処に居るならもう少し此処に居ようかな」
太宰に凭れ掛かり目を細めた。
「葉琉」
「何?」
「世界と葉月ちゃん、何方かを助けられるとしたら何方を助ける?」
葉琉は太宰を見上げ一瞬戸惑うような表情を見せたが、迷いなく答えた。
「両方、かな。葉月も勿論大切だけど、治ちゃんと生きていく世界も大切だもん」
微笑む葉琉に太宰は「本当、君達は」と笑い返す。
「何かあったの?」
「少し気になってね。あまり気にしないでおくれ」
葉琉は立ち上がり、太宰と向かい合うと頰に手を添えて口付けをした。太宰は驚いた表情を浮かべる。
「葉琉…」
「治ちゃんが何を悩んでいるか判らないけど、私は治ちゃんを信じてるよ。だから…」
葉琉が言葉を言い終わる前に、次は太宰が葉琉に接吻をした。顔を離すとぎゅっと抱き締める。
「葉琉、愛しているよ」
耳元で心地良く響く太宰の声に目を細めた。
「如何したの?治ちゃん」
「……葉琉は?」
「大好き。ううん、愛してるよ。治ちゃん」
葉琉の言葉を聞いて、ゆっくりと躰を放し、何方からとも云えない口付けを交わした。