第14章 【SS】慰安旅行
手持ち花火も粗方消化し、葉琉と葉月は噴射花火と打ち上げ花火を準備していた。
「そっかぁ、太宰さんはやっと報われたんだね」
「え、葉月も気付いてたの?」
「そりゃあ気付くよ。太宰さんは葉琉の事になると判り易かったもん。普段は他人に悟らせない様な表情してる癖にね」
葉琉はじとーっと葉月を見た。
「如何したの?」
「治ちゃんは葉月の事が好きなんだと思ってた。何時も息ぴったりで治ちゃんの無理に応えてたのは葉月と中也だもん。それに、最近よく逢ってたみたいだし」
葉月は手を止めて目をパチクリさせた。そして、にっこりと笑うと「可愛いなぁ葉琉は」と頭をわしわしと撫でた。
「今も昔も、太宰さんにその気は無かったと思うよ。それに、何方かと云うと私は太宰さん苦手だし、今だってお互いに利用し合ってるだけだもん。一時の関係性だよ」
「え!?一夜の関係性!?」
「違う!仕事で云う良い取引先って事!」
何故かお互い顔を赤くしながらフーフーと息を切らす。
「本当にやめて。変に太宰さんとの誤解生まないで」
「ごめん。でも、誤解する様な発言したのは葉月だよ」
「葉琉が勝手に聞き間違えたんでしょ」
少しの沈黙があり、お互い花火の準備を再開する。
「花火、来てくれて有難う。真逆、こうやって四人で花火やるなんて考えてもみなかった」
「中也に感謝だね。私も楽しかったよ」
花火の準備が終わり、葉琉は少し離れた処で煙草を吸っていた太宰と中也に向かって手を振った。
「打ち上げるよ〜」
二人が此方に向かって歩いてくるのを確認し、葉琉と葉月は導火線に火をつけて足早に二人に駆け寄った。合流直後、噴射花火が順番に火花を散らす。続く様に打ち上げ花火も上がる。
葉琉の手にそっと触れる温もり。するりと掌に滑り込んでくる。誰の温もりかは直ぐに判った。
「治ちゃん…?」
太宰は葉琉の視線に気が付くと優しく微笑んだ。葉琉も微笑んで花火に視線を戻した。