第14章 【SS】慰安旅行
ーー男湯ーー
谷崎、敦、賢治の三人が露天風呂に着くと、既に二人の先客が居た。その二人は何かを探す様に囲いに沿って歩いている。谷崎と賢治はその二人に既視感があった。思い出せない儘温泉に浸かっていると太宰と国木田もやって来た。国木田はその二人に気付くと睨み付けた。
「何をしている、貴様等」
二人の男はゆっくりと振り返る。二人の男は国木田を知っていた。昼間、葉月を軟派しようとして国木田に止められた連中だ。二人が退散しようとした時、囲いの隙間から薄い刃の様な物が飛んできた。それは二人の男の間を掠め、反対側の囲いに刺さり温泉の熱でゆっくりと溶けていく。二人の男は驚きで固まった。
「あれは…」
敵襲かと思い構える国木田、敦、谷崎、賢治に対し、太宰はニンマリと笑う。
「いやぁ、君達命知らずだねえ」
あははと笑い出す太宰に探偵社の連中はポカンと口を開け、男二人も動けずにいる。
「私の予想が正しければ、其方は女湯だ。君達は女湯を覗こうとしていたね?いやあ、実に傑作だ。君達は知らないだろうから教えておいてあげるよ。今、その柵の向こうにはとんでもない嗅覚を持った私の番犬がいるのだよ。君達に気付いてアレを飛ばしたのだろうね」
太宰は刺さっている氷の刃を指した。その刃は既に殆ど溶けてしまっている。太宰はゆっくりと二人の男に近付いて行く。その表情は何時もの飄々とした物と違い、不適な笑みを宿している。
「そしてもう一つ。私はね、自分のモノが誰かの玩具にされるのが許せなくてね」
太宰の圧に中てられ動けない二人。太宰は二人の前に立つと浮かべていた笑顔が消え、低い声で「今すぐ消えろ。私の前から」と告げた。二人の男は慌てて露天風呂から出て行った。
その様子を黙って見ていた敦が恐る恐る「太宰さん?」と声を掛ける。太宰は何時もの飄々とした雰囲気に戻り「さぁ、温泉に入ろう」とにっこりと笑った。