第14章 【SS】慰安旅行
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太宰と葉琉は二人で部屋に戻ってきていた。今回泊まる予定の男部屋の方だ。
「ッ!治ちゃん、もっと優しくッ」
「我慢して。ほら、動かないで」
太宰は葉琉の右膝に大き目の絆創膏を貼った。葉琉の肩から力が抜ける。少し涙目で「有難う」と告げた。
「葉琉さん、いい歳してはしゃいで転んで怪我するって如何なの?」
「……面目無い」
数十分前の事。昼食を食べ終えた葉琉達は再び海へ繰り出した。乱歩が持ってきた水鉄砲で敦、谷崎兄妹、鏡花、賢治に混じって年甲斐もなくはしゃぎ倒したのだ。砂浜で転べばここまではならなかったものを、葉琉はコンクリートの上で盛大に転び膝に傷を作った訳なのだ。
「ねぇ、治ちゃん。先刻から機嫌悪い?」
「私がかい?」
「うん、何となく機嫌があまり宜しくないかと」
トイレから戻ってきてから太宰はずっと思い詰めるような表情をしていた。それは、周りには悟られず、葉琉が微かに読み取れる程度の変化だ。
太宰はふっと笑うと葉琉の頰を両手で包み、見下ろす様に視線を合わせた。
「治ちゃん?」
「葉琉、口開けて」
「へ?」
自分でも驚く程素っ頓狂な声が出る。だが、太宰はそれを気にする素振りも見せずに真っ直ぐ葉琉を見下ろす。
「一寸待って、治ちゃ…」
太宰の唇は葉琉の言葉を呑み込む様に塞いだ。直ぐに侵入してくる舌は葉琉の舌を逃さないように絡めてくる。容赦なく口内を蹂躙する太宰に、葉琉は気付くと太宰のパーカーを握りしめていた。それを良しとしたのか、頰を包んでいた太宰の片手がシャツの裾から這うように侵入する。
「んー!…んん…!」
首を横に振り、パーカーを掴んでいた手で侵入してくる手を妨げるように抵抗した。太宰は呆気なく顔を離し、弄っていた手も引いた。そして、そのまま葉琉の肩にもたれかかる様に頭を乗せ「ごめん」とだけ呟いた。