第14章 【SS】慰安旅行
ーー慰安旅行、当日
葉琉が探偵社に着くと、既に殆どの人が集まっていた。ビルの前にはレンタルだろうか、マイクロバスと運転手さんが待っている。
「おい、太宰は如何した」
点呼を取っていた国木田が太宰がいない事に気が付く。しかし、そこに居た全員が太宰の行方を知らなかった。「出発時間になっても現れない太宰など知った事か!」と云う国木田の言葉通り、太宰を置いてバスは出発した。
「あーぁ、治ちゃん居ないなんてつまんなーい」
「おやおやァ。何時からそんな可愛い事言えるようになったンだい?葉琉」
後ろの席にいる与謝野がにやにやし乍、尋ねてきた。
「だって、昨日はあんなに楽しみだって言ってたんですよ?折角今回は治ちゃんも一緒にお酒が呑めると思ったのにぃ」
葉琉の言葉に車内は静まり返った。葉琉は「あれ?」と訝しげに周りを見渡す。沈黙を破るように言葉を発したのは国木田だ。
「葉琉。お前は当分の間、酒は無しだ」
「えぇ!?何で!?」
与謝野は堪えていた笑いが溢れて「そりゃアあれだけの事したらねぇ」と言う。
「私、何かしました!?」
偶々目が合った敦が「いや〜」と指で頰を掻き乍、少し顔を赤くする。
「何時も可愛い葉琉さんが更に色気を纏ったと云いますか…」
「それ以上云うな、敦!思い出したくもない!」
国木田は耳まで赤く染めて敦の言葉を遮った。
「何さ、国木田君のケチ!」
「ケチとかそう云う問題ではない!」
言い合いが始まった国木田と葉琉を横目に、乱歩はお菓子を食べ、谷崎兄妹は相変わらずで、賢治は眠っていた。国木田と葉琉の仲裁に入ろうとした敦が不意に窓の外に何かを見つけた。
「あーーーーーーーー!」
「「ん?」」
国木田と葉琉も一斉に敦を見る。
「何事だ敦」
敦は国木田の質問に答えず運転手に向かって「バスを止めてください!」と叫んだ。バスは橋の途中で止まった。敦は窓の外を指し「あれ、太宰さんじゃないですか?」と恐る恐る尋ねた。皆は一斉に敦の指した先に目を凝らす。敦は異能の所為で視力が良いため遠くの物もよく見える。だが、葉琉達が太宰を視認する迄にそれ程時間はかからなかった。何故ならゆっくりと此方に近付いて来ていたからだ。