第13章 華麗なる幕引きを
移動中、空を見上げると此方に向かって落ちてくる白鯨とその白鯨に向かって飛んで行く小型飛行機が見えた。葉琉は祈る様に目を閉じる。太宰はそんな葉琉の様子を黙って見つめていた。
港には白鯨から脱出した敦と芥川、それと組合員の男が居た。その場には敦の嗚咽が響いていた。
「これで善かったのだよ、敦君」
敦が顔を上げるとそこには二人の人物が居た。
「太宰さん…葉琉さん…」
「鏡花ちゃんは自分に克ち街を救った。探偵社に相応しい高潔さでね。彼女は望みを叶えたんだ」
敦は拳を握り「でも…でも!」と繰り返す。
「彼女が死ななくちゃならない理由なんて何処にも…!」
葉琉はそっと敦に近付き、握りしめている拳を握った。
「確かに、厳し過ぎる結末だよね。でも、そうしなくちゃいけない理由があったの」
そう言って目線を太宰の更に奥へ向ける。敦も葉琉の視線を辿った。
「!」
太宰の後ろから現れたのは社長だ。
「社長の異能『人上人不造』は自分の部下、つまり探偵社員にのみ発動する。効果は"異能の出力を調整し制御を可能にする"制御能力だ。敦君が腕や脚のみなら虎の異能を操れるようになったのは探偵社に入ってからだ」
太宰の言葉に続けて葉琉が話し始めた。
「そして、鏡花ちゃんは入社試験に合格した。衝突の直前にね。それが如何いう事か判るかな?」
微笑む葉琉が敦の手を離し後ろを指した。敦は葉琉の指した方へ振り向くと、そこには夜叉白雪を従えた鏡花の姿があった。
「夜叉の刀で鎖を切って脱出した」
敦は駆け出し鏡花を抱きしめる。
「……痛い」
二人の様子を伺っていた太宰が声をかけた。
「悪かったね二人共、秘密にして。そうでないと入社試験の審査にならなかったから」
敦は太宰を見つめ「若しかして……最初から全部…?」と尋ねると、太宰はニコッと笑った。
「街は救われた。敵は打倒され鏡花ちゃんは合格した。不安もあったが巧くいって善かったよ」
葉琉は敦と鏡花を一緒に抱きしめた。
「敦君、よく頑張ったね。鏡花ちゃんもよく乗り越えたね」
躰を話すと二人をよしよしと撫でた。