第12章 双つの黒と花の役割
社長の能力下でも抑えきれないということだろう。それ程、二日連続で行った【漂泊者】で得た葉月の力が多かった事を示す。
「葉琉!落ち着くんだ。葉月ちゃんは君の所為なんて思っていない」
太宰が近付こうとするが冷気に阻まれる。
「ーッ!葉琉!」
太宰は手を伸ばすが氷の礫が腕に中り血が滲む。太宰の頭の中では以前、自分が止めることの出来なかった友の姿が浮かんだ。
漸く葉琉の腕を掴み引き寄せた。辺りの冷気は一瞬で収まり、元の静かな山道へと戻る。太宰は強く葉琉を抱きしめた。
「葉琉、ゆっくり呼吸を整えるんだ。大丈夫、大丈夫だから」
我に返った葉琉はがたがたと躰を震わせている。
「……治ちゃん…血が…」
葉琉は太宰の腕に滲む血を見つけ更に動揺する。離れようとする葉琉を太宰はしっかりと抱きしめる。
「離して、治ちゃん。治ちゃんと居たら、これだけじゃ済まないくらい傷つけちゃう。私が消えれば氷島も消えるでしょ!?もう厭だよ…私が居るだけで誰かが傷付くなんて…葉月や治ちゃんを傷つけるなんて…私なんて居なければ…!」
葉琉が言葉を言い終える前に太宰に口を塞がれた。それは手ではなく、太宰の唇だった。葉琉の躰から力が抜け目を見開いた儘動けなくなった。