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明るみの花【文豪ストレイドッグス】

第12章 双つの黒と花の役割


二人の間に会話は無かった。お互い、無言の儘山道を降りていた。葉琉は地味に襲ってくる睡魔に伸びをしてみたり、欠伸をしたりと対応していた。太宰は立ち止まると葉琉へ振り返り「今日は無理させてごめんね」と声をかけた。葉琉は一瞬驚いた様な顔をしたが、直ぐに何時もの表情に戻った。

「ねぇ、治ちゃん」

「何だい?」

「眠たい」

次に驚いた表情を見せたのは太宰だ。しかし、此方も直ぐに微笑むと背中を向け屈んだ。

「さぁ、どうぞ。お姫様」

葉琉は何も言わずに太宰の背中にしがみ付く。太宰は葉琉をおぶると、山道をゆっくりと下って行った。

「ねぇ、治ちゃん」

「ん?」

「あのラヴクラフトって人、…人なのかな?凄かったね。怪我、大丈夫?」

太宰は笑い乍「そう思うならおぶらせないで欲しいものだよ」と答えた。

「ねぇ、治ちゃん。中也も凄かったね。汚濁久しぶりだったのに」

「それについてはノーコメント」

「ねぇ…治ちゃん…」

葉琉の声は震えている。外套も背中の辺りが引っ張られているのを感じる。太宰は異変に気付き脚を止めた。

「葉月は……いなくなったりしないよね…?」

太宰は顔を葉琉に向けた。葉琉は太宰の背中に顔を押し付け、表情が見えない。しかし、太宰の外套を握り締めている手が、肩が震えているのが判った。

「葉琉…」

「ねぇ、答えて治ちゃん。【漂泊者】を使用すると数日は葉月の能力が低下する。逆に私の能力は制御が難しくなるくらいに強くなる。これって葉月の能力を奪ってるって事?眠っている時間だってそう、葉月への影響の方が大きい。治ちゃん、何か知ってるんでしょ?」

太宰は何も答え無かった。否、答えられなかったのだ。何時もなら簡単に出る嘘も思いつかず、この沈黙が更に葉琉を苦しめる事も判っている。それでも、太宰には真実を葉琉に伝えるべきか迷っていた。

「葉琉、少し聞いてくれるかい?」

太宰はやっとの思いで言葉を口にする。葉琉は顔を見せない儘、こくりと頷いた。
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