第12章 双つの黒と花の役割
葉琉の攻防戦の最中、社長も首領に刀を抜き詰め寄っていた。社長の一撃を躱し、首領は手術刀を取り出し後ろから社長の頸元に中てた。社長も刃を後ろに向け、首領の頸元に中る。二人の視線だけが合わさった。
「……刀は棄てた筈では?孤剣士『銀狼』福沢殿」
「手術刀で人を殺す不敬は相変わらずだな。森医師。相変わらずの幼女趣味か?」
「相変わらず猫と喋っているので?」
首領が手術刀を向けていた社長はゆらりと消える。首領は気配のする方は顔を向けた。そこには先刻まで目の前にいた社長と、谷崎の姿が在った。
「……立体映像の異能か」
首領は身を翻し「楽しい会議でした。続きは孰れ戦場で」と告げ歩き出した。
「今夜、探偵社は詛いの異能者"Q"の奪還に動く」
首領は足を止め、振り返り「それが?」と聞き返す。
「今夜だけは邪魔をするな。互いの為に」
「何故」
「それが我々唯一の共通点だからだ…『この街を愛している』街に生き街を守る組織として、異国の異能者に街を焼かせる訳にはゆかぬ」
「組合は強い。探偵社には勝てません」
首領は太宰に視線を向けた。
「ではまた、太宰君。マフィア幹部に戻る勧誘話は未だ生きてるからね」
「真逆、抑も私をマフィアから追放したのは貴方でしょう」
「君は自らの意思で辞めたのではなかったかね?」
「森さんは懼れたのでしょう?いつか私が首領の座を狙って貴方の喉笛を搔き切るのではと。嘗て貴方が先代にしたように。鬼は他者の裡にも鬼をみる。私も貴方と組むなど反対です」
首領はふぅと息を吐くと振り返り、後ろにいた葉琉に笑顔を向けた。
「先刻は素晴らしい動きだったねぇ、葉琉ちゃん。如何だい、また葉月ちゃんと組んで暗殺部隊を率いてみないかい?」
葉琉は首領の横を無言で通り、太宰の横に並んだ。
「私はもう、殺しはしません。それに、首領が遣いたいのは私達の能力でしょう?」
首領は「勿体無い限りだよ」と微笑むと部下を連れて去って行った。