第12章 双つの黒と花の役割
とある公園で太宰と葉琉は並んで座っていた。
「待っていても良かったのだよ」
心配そうに葉琉を見る太宰に、葉琉は首を横に振った。
「大丈夫だよ。自分の仕事くらいするよ」
微笑む葉琉を太宰も微笑んで見つめた。不意にピクリと反応する葉琉に太宰も葉琉が見つめる方角を見つめた。
「来たよ」
「そのようだね」
何者の姿も見えない方向を唯見つめていると、人影がぞろぞろと現れた。太宰は立ち上がり「ようこそ、首領」と告げた。葉琉もゆっくりと立ち上がる。
首領はにっこりと笑い乍「四年振りだねぇ、太宰君。葉琉ちゃんはこの間振りだね」と手を振っている。
「太宰君、私が購ってあげた外套はまだ使っているかい?」
「もちろん、焼きました」
太宰と葉琉の後ろから二人の影が現れた。社長と国木田だ。社長は二人の前へ出た。
「ポートマフィア首領、森鴎外殿」
「武装探偵社社長、福沢諭吉殿」
社長と首領はゆっくりと歩み寄る。その様子を両組織の部下達は息を呑んで見つめていた。
「竟にこの時が来たな」
「探偵社とポートマフィア、横浜の二大異能組織の長がこうして密会していると知ったら政府上層部は泡を吹くでしょうねぇ」
社長は直ぐに話を切り出した。
「単刀直入に云おう。探偵社の或る新人が貴君らポートマフィアとの『同盟』を具申した」
「ほう」
「私は反対した。非合法組織との共同戦線など、社の指針に反する。だがそれは、マフィアに何度も撃たれ斬られ拐かされた者から為された提案だ。言葉の重みが違う。故に、組織の長として耳を傾けざるを得なかった」
「お互い苦労の絶えん立場ですな」
「結論を云う。同盟はならずとも、一時的な停戦を申し入れたい」