第11章 三組織異能力戦争
一週間前、旧晩香堂がマフィアに見つかった事もあり拠点を探偵社社屋に戻した。安吾と密会を行った太宰は事故に巻き込まれて右腕を負傷。鏡花は逮捕されてしまったため、下手に手が出せない。敦は組合に捕まったと云う情報のみで手掛かり無しだった。
この日も何事もなく終わろうとしていた。
夜も深まる時間帯、緊急事態に誰かが事務所に居ないと拙いという事で交代で宿直を行なっていた。今日の当番は葉琉だ。だが、眠る事が出来ずに屋上で空を見ていた。持参した敷物の上に仰向けで寝そべり、手を空に向けて伸ばす。街の灯りの所為か小さい星の光は見えないが、月は何時でも誘うように輝いている。
「ばぁ!」
真上から急に現れた顔に勢い良く起き上がる。
ゴンッと云う鈍い音が響いた。
「葉琉、痛い」
「ごめん」
急に顔を出した太宰と急に起き上がった葉琉の額は見事に打つかり、只今二人は地面で悶えている。葉琉は額を摩り「気配消して来ないでよ」と言うと、次は太宰が「ごめんよ」と返す。
葉琉は何かに気付くと太宰の匂いを嗅ぎ始めた。
「一寸、葉琉ちゃん。今日は随分と大胆ではないかい?」
「治ちゃん、お酒くさい」
「いいなァ」と頰を膨らませる葉琉に太宰は思わず吹き出した。
「宿直が呑んでは意味がないだろ?」
「それはそうだけど。じゃあ治ちゃんは何しに来たの?」
「一寸葉琉の様子を伺いにね」
そう言って立ち上がり葉琉に手を差し出した。葉琉はその手に掴まり立ち上がる。その時、酒とは違う別の匂いがふわりと漂った。葉琉はその匂いに心当たりがある。
「ねぇ」
誰と一緒だったの?と聞きたかったが言葉が出てこない。太宰は「何だい?」と微笑む。何故自分がこんなにモヤモヤしているのか判らない儘、「寒いから中戻ろうか」と言い屋上から中へ入って行った。