第10章 嵐の前の喧嘩日和
葉琉は走り出し、階段を降りて何処かへ行ってしまった。鏡花は追いかけようとしたが、直ぐに止めて太宰を睨んだ。
「貴方がしたい事はこんな事なの?」
太宰の瞳の氷の様なものは消え、寂しそうに笑った。
「君の様な若い子にそんな事を言われるとはね。全く恥ずかしい限りだよ。判っているさ、葉琉が何を思って一緒に来てくれたのかも。だけどね、葉琉と私は同じ気持ちでは無かった。それだけだよ」
鏡花はキョトンとした顔で太宰を見上げていた。太宰はその様子を微笑んで見ていた。
「済まないね。君にはまだ少し難しかったようだ」
そう言うと鏡花の前に手を出した。
「その猫、私が預かっても良いかい?今回は私も大人気無かった。素直に葉琉に謝るとしよう」
鏡花は太宰に猫のストラップを渡した。太宰は其れを受け取って階段を降りて行った。
太宰は葉琉が行きそうな処を回った。寮、喫茶店、港、公園。何処にも葉琉の姿は見つからなかった。
(残る場所は…)
太宰は最後の思い当たる場所へ向けて歩き出した。