第9章 大切にするが故に
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目を覚ますと暗い部屋にいた。何も見えない。暫くして気が付いた。私は目隠しされていると。脚が冷んやりとする為、床に直接座らされているのが判る。両腕は後ろで組むように縛られ、何か薬を打たれたのか少し手が痺れる。たぶん、異能力を使わせない為だろう。
「目を覚ましたかい?葉琉ちゃん」
聞き覚えのある声がした。私は小さく呟いた。
「…首領」
首領の表情は見えない。だが、また笑っているのだろう。この時、初めてポートマフィアに捕らえられたと悟った。
「お久しぶりです、首領。でもこれは些かやり過ぎではないですか?」
私は後ろに組まれている腕をぶんぶんと振った。
「久しぶりだね。荒い歓迎を許しておくれ。それくらいしないと、君に暴れられたら止めるのに骨が折れそうだからね」
「買い被り過ぎですよ。それで首領、こんな温い話をしに私に会いに来た訳ではないでしょ?」
「否、それだけだよ?処刑前に娘の様に可愛がっていた葉琉ちゃんに会っておきたくてね。君がもし、此方に戻ると云うならば他の手立てもあるがね」
「ご冗談を」
「私は本気だよ。君が戻りたいと言ってくれるのであれば、太宰君も生かして置くこともできる」
「…今更私を戻しても首領に利益なんて…」
「君達二人の能力を使いたい」
二人の力、漂泊者のことだろう。私は唇を噛んで黙っていた。
「いい返事を期待しているよ」
足音と共に人の気配は消えた。今の会話で治ちゃんも捕まっている事がわかった。でも、ここにはいない。治ちゃんは一体何処にいるのだろう。幾つか候補が上がっても、今の状況だとどうする事も出来ない。とりあえず、大人しくしている事にした。