第9章 大切にするが故に
ーーポートマフィア本部ーー
そこは拷問等に使う部屋だ。そして四年前、芥川の調教にも使用した。太宰は一人、ここに繋がれていた。
「ふんふーん♪たらーったったー♪」
機嫌よく歌っている太宰の首に黒獣が喰らい付いた。しかしそれは、太宰に触れると共に掻き消える。
太宰はその黒獣を飛ばした人物を見据えた。
「…あぁ、君いたの」
そこにいたのは芥川だった。ゆっくりと階段を降りながら太宰に近付く。
「ここに繋がれた者が如何なる末路を辿るか…知らぬ貴方ではない筈だが」
「ねぇ、葉琉は何処だい?一人では寂しいのだけど」
「………貴方の罪は重い。突然の任務放棄、そして葉琉さんを連れての失踪。剰え今度は敵としてマフィアに楯突く。とても元幹部の所業とは思えぬ」
「そして、君の元上司の所業とは?」
薄い笑みを浮かべて話す太宰を芥川は殴りつけた。
「貴方とて不損不滅ではない。その気になれば何時でも殺せる」
「そうかい。偉くなったね。
今だから云うけど、君の教育には難儀したよ。呑み込みは悪いし独断専行ばかりするし、おまけにあのぽんこつな能力!私が居なくなった後、葉月ちゃんが頑張ってくれたのかな?でも、彼女も苦労しただろうね」
「……貴方の虚勢も後数日だ。数日の内に探偵社を滅ぼし人虎を奪う。貴方の処刑はその後だ。自分の組織と部下が滅ぶ報せを切歯扼腕して聞くと良い」
去ろうとする芥川に太宰は告げた。
「できるかなぁ、君に。私の新しい部下は君なんかよりよっぽど優秀だよ」
芥川は一度止まり、そして振り返ってまた太宰を殴りつけた。