第9章 大切にするが故に
● ● ●
「んー…いない!」
もう陽が沈みかけている。しかし、治ちゃんは見つからない。この時間ならもう乱歩さんは事件を終えているだろう。このままでは私まで国木田君の大目玉を喰らってしまう。
とぼとぼと探偵社へ帰る道を歩いていると、目の前を見覚えのある三人組が歩いていた。
「あー!治ちゃん!」
三人組の後ろにいた男、治ちゃんが振り返った。
「やぁ、葉琉。また私を探し回ってくれていたのかい?」
ワナワナと震える葉琉を敦君はどうどうと宥める。
「それじゃあ敦君。私は葉琉と帰るよ。乱歩さんを宜しくね。それと、国木田君には上手く言っといてくれ給え」
そう云うと、治ちゃんは私の手を取り走り出した。
「一寸!治ちゃん!」
「葉琉、この間のプリンの埋め合わせをさせてくれ給え」
私は一瞬驚いたが、ふふっと笑いながら治ちゃんに手を引かれ街へと消えて行った。
● ● ●
夜の街角、一人の少女が立っていた。長い髪を二つに縛り、紅い和服を着ている。首からは兎と猫のストラップが付いた携帯をぶら下げていた。
少女は黙ってここを通るであろう人物達を待っていた。
少女がピクリと反応する。その目線の先には二人の男女、太宰と葉琉の姿が。
少女はその二人に近付き太宰の外套を掴んだ。
「…見付けた」
二人は驚いて少女をみた。その瞬間、少女の後ろから異形の像が浮かび上がった。
「治ちゃん…!」
「…これはまずい」
少女が放った異形と共に二人は姿を消した。