第8章 ヨコハマの破落戸
敦と谷崎とナオミは依頼人と一緒に探偵社を出た。四人を見送った太宰は、葉琉に声をかけた。
「葉琉もそろそろ帰ったらどうだい?」
「なに?私が居たら邪魔?」
太宰は肩を竦めながら困った顔をした。
「今日はビーフシチューが食べたいのだよ」
「時間掛かりそうだね」
「だから……」
「判ったよ。帰る。プリン忘れないでね」
そう云うと葉琉は探偵社の事務室を出て行った。
● ● ●
葉琉が帰ると太宰はヘッドホンを付けてソファに横になって居た。国木田は事務室で掃除機をかけている。
「オイ邪魔だ。除け」
国木田の言葉に手をひらひらと振って返す太宰。
「全く。葉琉が帰った途端にこれだ」
国木田は太宰のヘッドホンを剥ぎ取り叫んだ。
「おい太宰!仕事は如何した!」
太宰は直ぐにヘッドホンを取り返しまた装着する。そして、「天の啓示待ち」と笑った。
● ● ●
治ちゃんの様子が変だ。完全に避けてるあの態度、何かあるのだろう。予想ではあの依頼人関連。あの人からは懐かしい古巣の匂いがした。たぶん、治ちゃんもそれに気が付いている。だから私を帰した。
探偵社の入っているビル一階の喫茶店うずまき、私は其処で珈琲を飲んでいた。窓の外を、色々と考えを巡らせ乍眺めていた。
(あの女性はたぶんマフィアだ。だけど、何故マフィアが探偵社に?私と治ちゃんに遭っても何も反応を示さなかった。目的は私達じゃない?ならば…)
幾ら考えても考えは纏まらない。元よりこう云うのは私の性分じゃない。はぁ、と溜息を吐いて珈琲を飲む。すると、窓の外に治ちゃんの姿を捉えた。
(やっぱり動き出した)
急いで会計を済ませ、店を出た。