第8章 ヨコハマの破落戸
● ● ●
「あー!もう!撒かれた!」
葉琉は太宰を追いかけて店を飛び出したが、太宰は人混みに紛れて姿を眩ました。たぶん、葉琉が追いかけているのに気が付いたのだろう。もうこうなったら勘で進むしかない。
葉琉は我武者羅に探し始めた。
暫く走り回ると、遠くの道に黒塗りの車を見つけた。葉琉は一度脚を止めた。走ったせいだろうか、自分の鼓動が速い。頭の中で進めと言っている自分と、戻れと言っている自分がいた。すると、路地からよく見知った人物が出てきた。葉琉の脚は動いた。前へ。その脚は先刻よりも早く動いていた。
「葉月…!待って……まって…!」
掠れた声で叫ぶ。葉月の前にいた人物、芥川と目が合った気がした。しかし、何事もなかったかのように車に乗り込む。葉月も続いて車に乗り、そのまま走り去ってしまった。
「ハァ……ハァ…」
脚から力が抜ける。
(何で…葉月が…)
葉琉は先刻葉月達が出てきた路地を見た。そして、そのまま中に入って行った。
奥には太宰と、調査に出かけた敦、谷崎、ナオミがいた。敦は気を失っているだけに見えるが、谷崎とナオミは重傷のようだった。
「!?葉琉、何故ここに」
「治ちゃんを追いかけて…そしたら葉月と芥川君が……これ、葉月がやったの?」
「葉琉、今は三人を与謝野先生の処へ運ぶんだ」
太宰に促されナオミを負ぶり、太宰は谷崎と敦を抱えた。そして急いで探偵社へと戻った。