第3章 訓練兵初日・朝
ドンッ
『うぎゃあ!?』
走っていた私は何かにぶつかり、とても女子とは思えない奇声を発して尻餅をついた。痛めた腰を自分でさする。
「いったー…一体何が…」
「ご、ごめん!大丈夫かい?」
『え、』
低くて優しげなその声は、私には聞き覚えのあり過ぎる声だった。
いつもいつも聞いていた、会うことの叶わないはずの彼の声。
見上げると、彼は片膝をつきこちらに手を差し伸べている。
眉を八の字に下げ、とても申し訳なさそうな顔をして。
彼とは…そう、ベルトルト・フーバー、その人だ。
ベルトルト、さん…
『~っえぇ!?あぁわわ☠︎△!#✕〇*??!!』
ズザザーッ!!
私はバタバタと暴れながら、物凄い勢いで数メートル後ろに後ずさりをする。
いやいや、こんな急展開聞いてないよ!心臓が付いて来てないって…!
ベルトルトさんがだってあんな、目の前に…!しかもあの体勢…王子様ですか!?か、かっこいいよぉ…耐えられない…
顔が熱くなっていくのが自分でもわかる。
思わず顔を覆い、指の隙間からベルトルトさんを少し覗く。
「ユズ、大丈夫!?」
クリスタが私に気付き、駆け寄って来てくれた。
ベルトルトさんはというと、驚いた様子でキョトンとし固まっていた。
「おいおい、何してんだベルトルト。怖がらせたんじゃないのか?お前は背が高いからー…」
ベルトルトさんの後ろの方からゴリ…ごほん、体格のいい金髪の男の子、ライナーがやって来た。
「あ、あぁ…そうかも、知れない…」
明らかに落ち込んだ様子で立ち上がり、ベルトルトさんは返事をする。そして彼はまた謝罪の言葉を口にした。
「ごめんね、ぶつかった上に怖がらせてしまって…」
2人は男子の割り当てられた部屋がある横道の方から出てきた所だったのだ。
…完全に走っていた私の方が悪いじゃん!しかも手を差し伸べてくれたベルトルトさんにあんな反応しちゃったし…謝るべきは私だ、何より怖がってなんか…!
『ち、違っ』