第8章 ……さよ、なら…?
「っあ、紅覇お兄様っ!?」
僕は部屋を飛び出した。
紅玉は、涙を拭いながら僕を止めようとしたけど…
そんなのに構ってられなかった。
─────
「……居ない、って…どういう、こと」
自分でも、血の気が引いていくのが分かった。
もう、目眩がしていることなんて忘れて…
紅玉の言葉が、脳内をぐるぐると回る。
「ヒック…きのう、のっ朝に…ちょっと出、出かけてくるって、言って…ぅ、ヒック」
夏黄文に背中を支えられながら、紅玉は続ける。
「っよ、夜にな、なっても…帰って来なくてぇっ…」
「…」
「今朝になって、も居な、い…からっ…みんなで探し回ったんですのよぉっ…?
っでも、どこにもっ……
ぅわあ゙あ゙あ゙ぁぁ~んっ!!!(泣)」
「…」
「っ…町にも、どこにも見当たらないのです…。
紅覇殿が目覚めるまでずっとここにいる、と、お部屋の前に居たんですが……
急に、どこへ行かれたのやら…」
「…」
思考回路が、停止した。
気付けば、ベッドから降りていて…
歪んでいく視界を、なんとか働かせて部屋を出た。
─────
「ルナっ、ルナっ!!!」
ルナがいない…
どこにも…いない…
何で?
まさか…あの夢が、現実になるの?
嫌だ…そんなのっ…
「ヤダッ…ルナ、ルナっ…」
「おい紅覇ぁっ!!
紅玉がよぉ、ルナがいねぇって…あれ?」
ジュダルが、紅覇の元に浮遊してやってきた。
でも紅覇は、構ってなんていられなかった。
一刻も早く、ルナを見つけなきゃ…
一刻も早く、ルナを抱きしめたい…
会いたい…
5日間、眠っていたせいで、ルナとお話できなかった。
5日間も…お話できなかった。抱きしめられなかった。キスできなかった。
「どこにも…行かないでっ…」
町に出てみても、どこにも居なくて……
紅覇の声は、にぎやかな町の騒音によって、かき消された。