第5章 彼女のため
今まで出会ってきた主人は、みんな…
酷かった。
私を、本当にただのネコとだけしか見ていなくて…
怪我をしていても、
お腹が減ったよって鳴いても、
喉を鳴らしても、
誰一人、撫でてくれなくて…。
心配してくれなかった。
にゃーって鳴けば、
「うるさい」
「黙ってられないの?」
その声が、私の大きな耳に届くだけで…。
所詮はネコ。
そういう目でしか見てくれなかった。
扱いが酷かった。
でも、紅覇が私に声をかけてくれたとき。
あなたから、もの凄い優しさを感じたの。
優しく撫でてくれて…
名前までつけてくれて…
お腹が空けば、ご飯を食べさせてくれて…
鳴いても、何一つ言わないで、優しく微笑んで撫でてくれた。
そんなあなたが…紅覇が、好きでたまらない。
「……──ルナ…、」
『なぁに?』
泣き止んでも僕は、ルナの膝に頭を乗せたまま。
僕の頭を優しく撫でてくれているルナの、柔らかくて小さな手の感触が、すごく心地いい…。
少し眠気に襲われながらも、僕は…小さく、呟いた。
「…キス、していい?」