第5章 彼女のため
少し開いた扉の隙間から、
紅覇の名前を呼びながら部屋の中を覗く。
ホッと、静かに息を漏らした。
部屋がちらかっていないのを見て、暴れはしなかったのだと見受けられる。
いつもの部屋との違いはない。
『……紅覇…』
でも…
紅覇はいつもと違った。
ベッドの上にいる紅覇は、扉の方に背を向けて、膝を抱えてうずくまっていた。
肩が震えていないところを見ると、泣いてはいないようだ。
だけど、かなり気持ちが落ち込んでいるようで…
紅覇なのに、紅覇じゃなく見えた。
『…紅覇、戻ったよー』
「…」
部屋に足を踏み入れて、そう言った。
でも紅覇は何も答えない。
『……』
ルナは、無言で
紅覇のいるベッドに行き、隣に座った。
目の前には、顔を伏せている紅覇の横の姿。
『……ねぇ、紅覇…』
ルナは、そんな姿を見ていられなくて…
紅覇に膝枕をしてあげた。
それでもなお動かない紅覇。
ゆっくりと、ルナは彼の頭をなでる。