第5章 星降る夜に愛を誓う/前編
あの徳川家康公から本を貸してもらえるなんて…
莉菜さん、君はやっぱり凄い人だ。
「何の本を借りたの?」
「えっとね、妖怪の本。読んでみる?」
「ありがとう、見せてもらう」
家康公が君のためにチョイスした本は一体どんな本なのか。
すごく興味を掻き立てられる。
本を手に取り、ペラペラと中をめくって軽く目を通してみた。
「…ー!」
「ね、どう?絵が面白いでしょ?キモカワだよね?」
「ああ… そうだな」
莉菜さん。
すごく言いにくいけど… これはどうやら妖怪の本じゃない。
寄生虫だ。
ヒトの体内に巣食う寄生虫をイラスト化して、その治療法… 鍼や灸を打つ場所の説明と共に記してあるみたいだ。
「……」
莉菜さんは笑顔で俺の感想を待っていた。
事実を伝えるべきか迷うところだけど、
莉菜さんが引かないように寄生虫とはあえて言わない方が良いかもしれない。
ただこれ、ものすごく貴重な医学書であることは間違いないな。
この時代にこんなにコミカルなイラストが描かれた本があったなんて。
俺はパタンと本を閉じた。
「見せてくれてありがとう。すごく価値のある本だと思うから、またゆっくり読むといいよ」
「うん、読んでみる!」
…これでいい。
崩し字が読みづらい莉菜さんにとっては、今は本に慣れることが大切だ。
家康公も恐らく そう思ってこれを貸してくれたんだろう、
俺の口から余計なことは言わない方がいい。