第5章 星降る夜に愛を誓う/前編
(サササ…)
(サササササ………)
闇に紛れて安土城に忍び込む。
守りは固いが、今日も誰に見つかることもなく侵入できた。
(サササササササ……)
着いた…
莉菜さんの部屋だ。
部屋の灯りが天井裏にまで漏れている。
(コツコツ)
「莉菜さん、こんばんは」
ノックしてから、声をかける。
「…………」
返事がない。
まさかまた、寝て………
「…っ」
でも… 今日は約束していたし……
そう思って、思い切って天井板を外した。
中を覗くと案の定、莉菜さんは行燈の側に座って本を読みながら船を漕いでいた。
「莉菜さん…」
俺を待ってるうちに眠くなってしまったんだろうか。
部屋に降り立ち、莉菜さんの前まで来てひざまずく。
「…………」
……まつ毛が長いな。
丸めた人差し指で、つ…と目元に触れると…
莉菜さんがパチッと目を見開いた。
「っ! 佐助く、むぐっ!?」
「しっ…」
驚きで大きな声を出しかけた莉菜さんの口を手で覆って塞ぐ。
「…ごめん、びっくりさせて」
「っ、んんむ」
ゆっくりと手を離す。
「こんばんは、莉菜さん」
「佐助くん… こんばんは」
俺が改めて挨拶をすると、今度は囁き声で莉菜さんが応えてくれた。
クスッと二人で笑い合う。
「今朝は狼煙を上げてくれてありがとう。急に誘ったりしてごめん、…眠かった?」
「ううん、大丈夫。ちょっとだけウツラウツラしてたけど、さっきまで本を読んで待ってたんだ」
「本を…?ああ、これか」
「うん!今日家康が、これなら私でも楽しめるんじゃないかって貸してくれて」
「へぇ…」