第1章 臆病な恋心
「莉菜さん、これ」
「え?」
シャラ、と音を立てて、私の左耳の上に その何かが差し込まれる。
「…?…?」
「良く似合ってる」
似合ってるって…
もしかして
「これって髪飾り…?」
「うん」
自分の手でそっと触れてみる。
(わぁ)
そこには確かに、小振りの髪飾りがあった。
「驚いた?今日はホワイトデーだから。もし君に会えたら渡そうと思って用意してたんだ」
「!」
ホワイトデー、、、
そっか、今日は3月14日だ!
「っ、鏡で見てもいい!?」
「うん、見てみて」
化粧直し時に使っている小さな鏡を取り出して耳元をうつすと、
エンジ色の丸くて可愛いお花から、銀色のびら飾りが垂れて揺れているのが見えた。
「可愛い…」
涙はすぐに引っ込んで、今度は感嘆のため息が漏れる。
「気に入ってもらえて良かった」
「ありがとう、佐助くん!」
「いや… どういたしまして」
頭の動きと共に、髪飾りからシャラシャラと音がする。
佐助くんからもらった初めての贈り物。
大事にしよう…
「ふふふっ」
もう一度 鏡に髪飾りをうつして、喜びに浸る。
佐助くん、本当にありがとう。
お陰でモヤッとした気持ちが吹き飛んじゃった。
私、この時代にタイムスリップしてからずっと、こうやって佐助くんの存在に支えられてるんだよね。
でもそれは、あくまで友達として。
幸せではあるけれど、
もっと佐助くんに近付きたいと願う、欲張りな自分もいて。
いつか…
いつか勇気を出して、この気持ちを伝えられるといいな……
…ーーと、
私が一人の世界に入っていたその時。