第5章 星降る夜に愛を誓う/前編
「う、うん… でも なかなかこの時代の本に馴染めなくて…… 字が読めないから」
本に馴染めないのは本当だ。
くずし字が読めないから読んでいても楽しくなくて、つい敬遠してしまって。
「…………」
すると、しばらく何かを考えていた家康が自分の持っていた本の中から一冊を選び、私に差し出した。
「はい」
「え?」
「…これ、先にあんたに貸したげる」
「えっ…」
「重いから早く取って」
「あ、ごめん!」
慌てて本を受け取ると、家康がそれ以外の本を落とさないように抱え直す。
「家康、これ」
渡された本の表紙には漢字三文字で題名が書かれてあった。
「しん、ぶんしょ…?」
「違う、『針聞書(はりききがき)』。それならあんたも読めるんじゃない?」
それなら読める、と言われ中身が気になってページをめくってみる。
どのページにも、何やらよくわからない妖怪のような絵が描かれてあった。
「ふふ、何これ。面白い絵がたくさんだね」
「文字だけより絵があった方が読みやすいでしょ。読めないからって避けてないで、とりあえず どんなのでも良いから本に触れていなよ。そしたらそのうち慣れてくる」
「!」
そこで初めて、家康のさり気ない優しさに気付く。
「ありがとう、家康」
「べつに。大したことしてない」
「読んだら感想言うね?」
「いいよ感想なんて。じゃあ俺はもう行くけど、ちゃんと火の始末しておいてよ」
「うん、わかった!」
温かい気持ちで家康の背中を見送る。
何だかんだでほんとに親切だよね、家康って。
今夜は10時まで起きてなきゃいけないし、ちょうど良かった。
この本を読んで佐助くんを待っていよう……
井戸の水で焚き火をきっちり消火した後、部屋に戻った。
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