第4章 男子会・春日山城城下の大衆食堂に於いて
その瞬間。
佐助の身体に強い緊張が走ったのがわかった。
いきなり何だ…?
別に何もねーよな?
刺客でも居たのかと周りを見渡すが特に問題はなさそうだ。
つーか普通、刺客に一番に反応するのは謙信様だろ。
けど謙信様は涼しい顔して酒呑んでるだけだし……
様子のおかしい佐助を無視するかのように信玄様は話を続ける。
「けどなー 看板娘目当ての男の客で昼時はいつも満員なんだ。むさ苦しいったらありゃしねえ」
「………」
「…むさ苦しいなら行かなきゃいーでしょうが」
佐助が何も喋らねえから とりあえず俺だけが返事をした。
謙信様は謙信様で、興味なさげに黙って徳利を傾けてる。
「それがだな、幸。自分でも不思議なんだが、たとえ混んでると分かっていても つい立ち寄ってしまうんだ。まるでこう… 蝶が花の蜜に吸い寄せられるように」
「まーたそうやってテキトーに理由つけて通いまくってその女たぶらかそうとしてんだろ」
「たぶらかすつもりなんかないさ。俺は可愛らしいものを愛でながら気分良く食事をしたいだけだからな」
「さー、どうだか」
佐助は放置されたまま、信玄様の話は続いた。
「幸、お前もその子をひと目見りゃきっと俺の気持ちが分かる。あれはまさに、美しい羽衣を纏いこの乱世に舞い降りた天女とでも言うべきか」
「天女ぉ!?」
「くだらん……天女などこの世に存在せん」
「………」