第4章 男子会・春日山城城下の大衆食堂に於いて
「ここは俺の馴染みの食堂なんだが、どの料理もなかなか美味いぞ。特に佐助が頼んだ鯖の味噌煮は絶品だ」
「そうなんですか?楽しみだな」
信玄様が会話のきっかけを作ると、全く楽しみじゃなさそーな顔して佐助が応える。
信玄様は城下で顔が広く、こういう庶民的な店にもひと通り詳しい。
甘味屋や食堂、呑み屋はもちろん女向けの小物屋にまで精通してる。
「ああ、そういや安土にもここと似た雰囲気の食堂があるな」
話の流れで何かを思い出したように、信玄様が口を開いた。
「安土に?へえ… その食堂、よく行かれるんですか?」
「そうだなー 潜伏中は三日に一度は行ってたかな」
「なっ…!けっこーな頻度だな。あんまり敵国でウロウロしねーで下さいねっていつも言ってんのに」
「だーい丈夫、俺の正体になんて誰一人気づいていない。んー、店の名はたしか… 鶴亀食堂だったか」
(カシャン!)
信玄様が言い終わるや否や佐助が手元にあった楊枝入れを倒し、楊枝が十数本 机の上に広がった。
「あーあー 何やってんだよ」
「ごめん、手が滑った」
楊枝を元へ戻すのに悪戦苦闘してる佐助を見かねて手伝ってやる。
全てを直し終えたのを見計らい、信玄様が話を再開した。
「こじんまりした店だが ここと同じで安くて美味いし…そのうえ甘味の種類も豊富で俺にはもってこいの店なんだ」
「甘味… それはいいですね」
「良くねーわ、隠れてちょいちょい食われちゃこっちが困る」
「まぁ待ちなさい。甘味も魅力的だが、それだけが目的で通ってたんじゃない」
「じゃー何なんですか」
「じつはその鶴亀食堂には それはそれは可愛らしい看板娘が居てな。安土に潜んでる時は その子の顔を見に行くのが俺の小さな楽しみなんだよ」
「!」