第1章 臆病な恋心
しばらくして注文したものが運ばれて来た。
おいしいねと言い合って二人でお団子を頬張り、少しずつ話をし始める。
最近どう?から始まり、
体調は大丈夫かとか
困ってることはないかとか
私を気遣う、佐助くんからの質問が続いて。
離れて暮らしていても、いつも気にかけてくれているのが伝わって来る。
優しいな…
佐助くんだって、春日山での生活は色々大変なはずなのに。
「佐助くんは?何か変わったことあった?」
今度は反対に 私が質問する番だ。
「俺は…そうだな。この間、新しいまきびしを手に入れたんだ」
「えっ、今持ってる?見せて見せて!」
「これなんだけど」
縁台に敷かれた赤い布の上に、佐助くんがコロンとまきびしを転がす。
「わぁ、痛そう」
その見るからに危険なまきびしは小さい鉄の塊を中心にして針が飛び出しているデザインだった。
「まだ実戦では試してないけど かなりのダメージを与えられると思う。でも鉄製だからけっこう重くて持ち運びが大変で… あ、危ないから触らないで」
「わかった 触らない。そっかぁ たしかに鉄だと重いよね」
「普段 一番よく使うのは水草のオニビシの実を乾かした物で…それがこれ。俺はスタンダードまきびしって呼んでる」
言いながら、革袋からまた違うまきびしをひとつ出してくれた。
(これがスタンダードまきびし…!)
じっくり見るのは初めてだ。
「おにびしの実っていうのは元々こんな形なの?」
「ああ。どの実にも、長くて鋭い棘が四本ある。この棘の向きのお陰で どう置いても尖った部分が上に来るようになってるんだ」
指でスタンダードまきびしを摘んで 丁寧に説明する佐助くん。
「ほんとだ、棘があっちこっちに向いてるね」
「これは作るのも簡単だから重宝してる。あとは木製タイプとか竹製のもある」
「ふんふん」
「さっきの針タイプは、ネズミの住居侵入を防ぐためにも使われるみたいなんだけど… って…… こんな話、聞いてて楽しい?」
突然、佐助くんが我に返ったように話を中断し、私の目をじっと見る。