第1章 臆病な恋心
「………」
「………」
歩き始めて直ぐに互い無口になり、市の喧騒がやたらと耳につく。
何か話そうと思えば思うほど他のことに意識が集中して…
人混みの中、佐助くんに手を引かれて進んでいると結局ほとんど
会話しないうちにお茶屋さんに到着してしまった。
「いらっしゃい!空いてる所に座ってちょうだい」
中から店の女将さんが顔を出す。
「どこに座る?外にも縁台があるみたいだけど」
「うーん…」
首を伸ばして店内を伺うと、お客さんはそこそこ入っているものの奥のテーブルに空きがあるのが見えた。
でも、縁台も気になるなぁ。
「お天気も良いし、外でもいい…?」
店頭に置かれた、朱傘付きの縁台を指差して希望する。
「わかった、外にしよう」
「私、外で食べるの気持ちよくて好きなんだよね」
「実は俺も」
「ふふ、一緒だ」
小さな共通点がひとつ見つかって、それが馬鹿みたいに嬉しい。
「はい お待たせ!ご注文は何にします?」
女将さんが出てきて佐助くんにお品書きを渡す。
「莉菜さん、何食べる?」
(あ…)
その瞬間、横並びに座ったあとも繋いだままだった手が、スッと離れてしまった。
ずっと繋いでいたかったけど…
仕方ない、
恋人同士じゃないんだから。
寂しさを紛らわすようにお品書きを覗きこむと佐助くんがチラッとこちらを見たのが分かった。
(…もしかして近過ぎた?)
お尻をずらして、ちょっとだけ佐助くんから距離を取る。
「んー、三色団子にしようかな」
「俺もそうする。飲み物はお茶でいい?」
「うん!」