第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
それから数時間後の戌の刻(※午後8時)、俺は安土城の天井裏に忍び込んでいた。
気配を頼りに莉菜さんの部屋を見つけ、天井板をノックする。
「…! 誰!?」
「こんばんは、莉菜さん」
声を掛けてから天井板を外し、逆さのまま顔を覗かせた。
「佐助くん! びっくりしたぁ」
「こんな所からすまない、お邪魔してもいい?」
「うん、どうぞ入って。さすが忍者だね」
莉菜さんは快く俺を部屋に招き入れ、座布団を勧めてくれた。
「これ、よもぎ餅なんだ。良かったらお近付きの印に」
「わぁ… ありがとう、よもぎ餅大好き!」
「この時代は夕飯が早いから夜になると小腹が減らない?」
「そうなの! かと言って真っ暗な台所に行くのも億劫で、いつも我慢してるんだよね」
水差しから湯呑みにお茶を注ぎながらクスクス笑う莉菜さん。
湯浴みの後だからか何なのか部屋全体が良い香りに包まれている。
夜分に女性の部屋に長居するわけにいかない、
俺はさっそく本題に入ることにした。
ーーー
「なるほど……」
今までの経緯を聞けたことで色々と合点がいった。
話の内容を整理するとこうだ。
ーーー
タイムスリップ当日、莉菜さんは短大の卒業旅行で友人と共に京都を訪れていた。
その日は市内の観光中で、莉菜さんは本能寺跡地の写真を撮るため一時的に友人達と別行動し、一人で石碑の前に居たらしい。
偶然にも同じ時間、大学の研究室を抜けて石碑を見に来ていた俺。
考えごとをしながら石碑に見入ってると急に小雨が降り出した。
『天気予報は晴れだったのに…! どうしよう』
『大丈夫ですか? 傘ありますか?』
『あ、いえ、持ってなくて』
そう、突然の雨に困惑する莉菜さんの姿が目に止まり、思わず話しかけてしまったんだ。
会話する間にも雨風は激しさを増す一方で。
やがて雷まで鳴り始め この場にいるのは危険だと判断、
どこか建物内に避難しようと周りを見渡してると、
(ピカッ… ドォォン!!)
あろうことかすぐ目の前に落雷、石碑が粉々に砕け飛んだ。
『君! 大丈…』
安否を確かめようと莉菜さんに手を伸ばしかけた時、再び稲妻が白く光って…ーー