第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
「ん〜…… ん! 昼間のお客様!?」
「そう。でもそれだけじゃなくて… ほら、京都の」
「っ…! わかった、石碑の前に居た白衣の大学生!」
不可解な部分全ての点と点が線で繋がったようで、莉菜さんがパンと手を叩いた。
「正確には大学院生だ。今は忍者にジョブチェンジしてるけど」
「やっぱりその格好、忍者なんだ…!」
「ああ。忍者の職に就いて君を探してた。タイムスリップしてしまったあの日以来、4年間ずっと」
「私のことを… 4年間? でも私は、」
「しっ、ちょっとストップ」
そこまで話したところで莉菜さんの唇に人差し指を押し当てる。
「話の途中ですまない。秀吉さんが近くまで来てる」
「っ!」
「声を出さずに聞いて欲しい。俺は今、訳あって安土軍と敵対する武将に仕えてて… それ故、安土軍の武将とは顔を合わせづらい立場なんだ。君は逆に、安土城で世話になってるみたいだから秀吉さんに俺と一緒に居るところを見られるのはお互いにマズい。言ってること、わかる?」
早口で一気に説明すると莉菜さんは軽く首を傾げた後、コクコクと頷く。
「俺は一旦 姿を消すけど… 今夜 必ず会いに行く。表の通りまで送るから掴まって」
死んでいないとは言え地面に転がる子分たちの身体を跨(また)がせるのは酷だ。
さっきと同様、彼女を横抱きにして路地から出る。
「ここに居れば じき秀吉さんが来てくれる。くれぐれも俺と会ったことは内密に… じゃあ、ひとまずこれにて」
「あっ、待って!」
そそくさとドロンしようとしたら小声で静止させられた。
「あの… 助けてくれて、ありがとう」
「どう致しまして」
「私は莉菜と言います。あなたは…?」
「!」
そうか、名前を言ってなかったな。
組んでいた手印を解いてもう一度莉菜さんに向き直った。
「俺の名前は佐助。本名の佐助という名にちなんで、この時代では猿飛佐助と名乗ってる」
「猿飛、佐助くん?」
「ああ。よろしく 莉菜さん」
「え、あ!」
そこで秀吉さん接近のタイムリミットが訪れる。
まだ何か言いたげな莉菜さんを残し、俺は今度こそドロンした。