第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
「アニキィィィ〜〜!」
通りの方からリーダーを呼ぶ声が聞こえて来た。
「いたいた! アニキ、大変っス!」
「邪魔すんじゃね"ぇ!俺ァ今からこのしぼび(忍び)と」
「それどころじゃ無ぇんス! 火急の知らせが…!」
新たにやって来た情報屋らしき男がゴニョゴニョと内緒話をし始める。
「何ィ、豊臣秀吉だァ!?」
…?
豊臣秀吉?
(何の話だ)
リーダーの口から飛び出したのは織田軍における超メジャーな大物武将の名前だった。
「へい。たった今入った情報じゃ、部下を連れた豊臣秀吉が血眼で莉菜を探してるらしいんス! 何でもその女、織田家ゆかりの姫らしく…」
「!? 莉菜が…?」
「織田家ゆかりの…?」
思わず俺も彼らの話に加わって三人で顔を見合わせる。
「そうなんス! ただの町娘かと思いきや結構な身分の姫君なようで」
「…っ!」
(莉菜さん… それは本当なのか?)
顔を覗き込むと気まずげに視線を逸らされる。
「そう言うわけで その女には今後一切関わらねぇ方が身のためっス!さっさとトンズラしましょう!」
男に促されたリーダーは我に返ったように背筋を伸ばし、"失礼しました"と頭を下げて逃げて行った。
ーーー
「………」
リーダー達が去った後、しばしの沈黙が訪れた。
今の話が本当だとすると莉菜さんは信長様の元で姫として生活をする一方、何らかの理由で食堂に働きにも出てる、ってことになる。
タイムスリップ後、どんな流れでそうなったのかは聞いてみないと分からないけど…
(ーー盲点だった)
偵察任務中、信長様がどこかの国の姫を預ることになったという情報だけは把握していた。
その姫が莉菜さんだったとは…
俺がきちんと調べていれば、もっと早くに気付けたのに。
「えっと… ごめん、何から話せばいいのやら」
「ほんとですね、私も頭がこんがらがってます」
聞きたいこと、話したいことが山ほどあって気持ちばかりが焦ってしまう。
ひとつひとつ整理していかないと。
「まず、俺の顔に見覚えはない?」
顔を確認してもらうために口布を指で引き下げる。