第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
莉菜さんのことはなるべく忘れるよう意識しながら民家の屋根づたいに家路を急ぐ。
そう言えば今日は幸村と落ち合う日だな。
晩御飯は有り合わせの材料で幸村の好物を作…ーー
「……て!」
…?
今、何か聞こえたような。
晩のメニューを考える最中、俺の耳が反応する。
「…けて!」
まただ。
「誰か…!」
「!」
空耳じゃない、
女性が助けを求める声だ。
しかもこの声は…ーー
「莉菜さん!」
俺は瞬間的に屋根瓦を蹴り、声のする方へ向かって駆け出した。
ーーー
辿り着いたのは安土城下でも治安があまり良くないとされている裏通りだった。
気配を絶って屋根の上で身を潜め、様子を伺う。
(居た…!)
10人ほどのガラの悪い男達に囲まれているのは…ーー
(やっぱり)
逃げ場を無くしてピンチに陥った莉菜さんを発見。
さらに男達の中に先ほどのリーダーの姿も見つける。
(悪い予感が当たってしまった)
状況から察するに、昼間のトラブルで鬱憤がピークに達したリーダーが強硬手段に出たと考えていい。
あんなに仲間を引き連れて一人の女性を追い詰めるなんて…
「…っ」
敵地で、しかも任務外での人助けなんて上杉軍に所属する忍びとしての範疇を完全に超えてしまってる。
それでも…ーー
「助けてぇー! 誰かーっ!」
「観念しろ、ここいら一帯は俺のシマだ。誰も助けちゃくれねぇよ」
「キャーッ!キャーッ!」
「チッ、うるせぇ女だな。下手に出てりゃつけ上がりやがって!」
「痛っ…」
(!?)
パチンと頬を張られた莉菜さんを目の当たりにした時、抑えきれない怒りの感情が沸き起こる。
『彼女を守らなければ』
怒りに突き動かされた俺は口布を引き上げ、渦中の真っ只中に降り立った。