第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
「よし、手伝おう」
一緒に片付けると申し出ると そこまでさせるわけには… と、莉菜さんは恐縮する。
それでも半ば強引に片付けを手伝い、店内が元どおり整頓されたところに女将さん達が帰ってきてしまった。
「留守番させて悪かったねぇ、お灸をすえてもらったら大分と良くなったよ」
一転して女将さんの表情は落ち着いている。
ただし今日一日は安静が必要らしく、結局 莉菜さんは夕方まで勤務を続けることになった。
(仕方がない、また今度)
俺はうどんを御馳走になった礼を言い、何事も無かったかのように店を出た。
ーーー
少し歩いた先で ふと足を止める。
(やっぱり気になるな)
チンピラのリーダーがあれで莉菜さんを諦めたとは到底思えないし、
俺が中途半端にしゃしゃり出たことで返って波風を立ててしまったかもしれない。
莉菜さんにもしものことがあったら、
「………」
ーーいや、考えるのはやめよう。
莉菜さんの素性がハッキリしないうちは深く関わるべきじゃない。
今までそうやって大抵のことは割り切って来たはず。
(さっき助けたのは たまたま居合わせたからに過ぎない)
自分にそう言い聞かせ、仕事へと向かった。
ーーー
その日の偵察任務が終わり陽も傾きかけた頃。
潜伏先の庵に戻る際、鶴亀食堂の近くを通りかかった。
(あれから莉菜さんは無事自宅に帰れただろうか)
性懲りもなくそんな心配事が頭をかすめる。
(明日もう一度店に出向こう。そして今度こそ彼女の素性を確かめるんだ)
今のところ顔がそっくりというだけで何の確証も無い。
それでも淡い期待を抱かずにはいられなかった。