第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
泥酔男性をなだめて何とか帰ってもらい、再び店内で二人きりになる。
「助けて下さってありがとうございました。ここで働き出してからしつこく付き纏われて、困ってたんです」
莉菜さんは詳しい事情を説明してくれた。
タチの悪い連中に目をつけられて大変だったみたいだ。
「そのことは女将さん達は知ってる?」
「…言ってません。せっかく見つけた仕事だし、事を荒立てたくなくて」
「………」
この様子じゃこれからも言わないつもりだな。
でも俺が思うに彼らの行動は明らかにエスカレートしてる。
いつまでも雇い主に秘密にするのが果たして賢明な判断と言えるのかどうか…
立場上、口を挟んで良いものか迷っていると、
「あっ、ちょっと失礼しますね」
「え?」
「唇に血が」
莉菜さんが胸元から手拭いを取り出し、俺の口に付着してた血を拭ってくれた。
「すみませんでした、本当に」
「…ーー」
目を伏せて頭を下げる莉菜さん。
その憂いげな表情と手拭いから香る甘い匂いに思いがけず心臓が跳ねる。
いや、俺には俺の都合があったし、謝られるようなことは何も…ーー
(!)
そうだ、
そんなことより莉菜さんがあの時の女性なのかどうか、早く確かめないと。
「手拭いをありがとう。 ところで君の出身地を聞」
「あーーー!!!」
「…っ?」
不躾だとは思いつつも出身地を尋ねようとしたら莉菜さんの声に遮られてしまう。
「大変、女将さん達が帰って来る前にお店を片付けないと!」
さっきの騒動で店の椅子やテーブルはひっくり返っていた。
七味も散乱してるし…