第8章 秘密の花園/後編
「莉菜はここか?開けるぞ」
『ぞ』と同時に部屋の襖が勢いよく開け放たれる。
「きゃーッ!」
驚いた私は、つい叫び声をあげてしまった。
お晴ちゃんは石のように固まっている。
「るせ……」
部屋の入り口には、左手で耳を塞ぎ 右手にお盆を持った政宗が目を細めて立っていた。
「ま、政宗!もう、急に開けないでっていつも言ってるのに」
「悪い悪い。随分探したぞ、莉菜」
「え、ごめん。何か用事だった?」
「きな粉餅を作ったから食わせてやろうと思ってな。部屋にいねえからあちこち探し回ってたらいつの間にか夕方になっちまった」
政宗が軽い調子でそう言うと、固まっていたお晴ちゃんが突然ガバッと畳にひれ伏した。
「まっ… 政宗様、申し訳ございません!私が莉菜様を長々とお引き止めしてしまい…!」
「えっ!?お晴ちゃんやめて!私が勝手に無理なお願いしに来たんだからっ!」
「いえ!責任は私にございます!」
「違う違う、私 私!」
「いえ、私が!」
「ぷっ…」
しばらく私達のやり取りをジッと見ていた政宗が、小さく吹き出した。
「お前ら見てると面白えな。そんなに気にするな。頭上げろ、晴」
「…っ!」
政宗に声をかけられ、やっとお晴ちゃんが顔を上げる。
「夕餉の前だが、せっかくだから固くなる前に食え。秀吉には内緒だからな?」
きな粉餅が盛られたお皿が、私達の前にある小さな机にコトッと置かれた。
「わぁ、ありがとう!頂きます」
美味しそう…
小腹がすいていた私は遠慮なく手を伸ばす。
「何ボーッとしてんだ、お前も食え。きな粉餅 嫌いじゃねえだろ?」
政宗が、私の横でぎこちなく座っていたお晴ちゃんに気づき 食べるよう促した。
「…はっ、はいっ」
政宗って全然周りを見てないようで、実はちゃんと見てるからなぁ。
こういうところは私も見習わなきゃいけない……
「有難うございます…!頂戴いたします」
お晴ちゃんは、おずおずときな粉餅を頬張った。