第1章 臆病な恋心
「莉菜、その髪飾りはどうした。行きは付けてなかったよな?」
「あ」
不意を突かれて あからさまにギクッとする。
「わぁ、美しい髪飾りですね」
しまった、
外しておけば良かった。
「えっと… これは さっきうろうろしてる時に露店で偶然目に付いて… 可愛いなって思って自分で」
「自分で買ったのか?なかなか良い品だ。けっこう値が張っただろ」
「う、うん… そう、かな?」
「とてもお前の稼いだ金だけで買える品物とは思えないが」
「確かにそうですね」
きゃー
二人にジロジロ見られてる!
上手くやり過ごさないと… って言うかこの髪飾り、そんなに高級品だったなんて!
佐助くん、お金使わせてごめん…!!
「けどな、何か欲しいものがあるなら俺か三成に言いなさい。ちゃんと小遣いは渡すから」
「はい、ありがとうございます…」
「しかしこちらの髪飾り… 小振りながら、見れば見るほど繊細な装飾ですね。そして莉菜様の雰囲気に本当に良くお似合いです。形状といい色味といい、まるで莉菜様が装着するためだけに存在しているかのような」
「あ、ありがと三成くん、もうその辺で」
はぁ、異様にドキドキする。
この会話、早く終わって欲しい…ーー
(もう、こうなったら)
「ひ、秀吉さん、三成くん」
「ん?」「え?」
「城まで競争!!」
会話を強制終了させるため、私はその場から走り出した。
「あ、こら!」
「莉菜様!?」
後ろから秀吉さん達の声が聞こえて来る。
でも、いくら呼ばれようと絶対に振り返らない。
市を行き交う人々の間を縫いながら、とうとう城まで全力疾走で逃げ帰った。
私の秘密の恋の行方はどうなるのか。
それはまだ、誰にもわからない…ーーー
ー おまけに続く ー