第1章 臆病な恋心
「よしっ、帰ろ!」
わずかな時間の後、お盆の上のお茶を綺麗に飲み干した私は勢いよく立ち上がった。
「女将さん ご馳走さまでした!」
「ありがとね、また来てね」
「はーい」
女将さんに ひと声かけてからお茶屋さんを出て、安土城へと続く道を一人で歩く。
すると間も無く、秀吉さんと三成くんに遭遇した。
…すごい、ほんとに居た。
佐助くんの言った通りだ。
「秀吉さん、三成くん!」
「あっ、莉菜様!」
三成くんが手を振り、秀吉さんも私に気付く。
「こーら、莉菜!こんなに長時間、一体どこをほっつき歩いてたんだ!」
「ごめんなさい!市が楽しくて ちょっと寄り道を…」
やっぱり心配させてしまってたんだ。
秀吉さん、自分が忙しいから私にお遣いを頼んだはずなのに。
結局探しに来させちゃって悪いことしたな…
「全く… 連絡も無しに帰らないと心配するだろ?」
「ほんとにごめんなさい!あ、これ、秀吉さんに頼まれた品物。ちゃんと買って来たよ」
「おう、ありがとな。でもこれからはあまり勝手にうろうろするんじゃないぞ」
「はい…」
確かに連絡無しは良くないな。
少し反省して、秀吉さんに頭を下げる。
「莉菜様、市は楽しめましたか?」
そこへ三成くんが話しかけてくれ、場の空気が柔らかくなった。
「うん!活気もあって楽しかった。色んなお店 冷やかしに入ったの」
「そうですか、それは良かったです」
「活気がある、か。町に活気があるのは これもひとえに信長様の手腕による…… ん?」
ふと、秀吉さんの目線が私の頭に注がれた。