第9章 【刀剣乱舞✕東京喰種】よだれ塗れの刀剣は主がお好き
「おれ、は・・・どうし、て」
唖然とする僕とこんのすけは主に気を取られていたけど、蚊の鳴くような掠れる鶴丸殿の声で我に返った。
見やれば二振りを覆い隠さんばかりに漂っていた瘴気は消え失せ、重傷だった怪我もなく。
腐り落ちた足と目は戻っていなかったけど。
何が起こったのかと主の方に向き直れば、まるで棒に刺さった飴を舐める幼子が如く舌を這わせる主がいた。
止めさせようと足を踏み出すと、こんのすけに袴を引かれそれは叶わなかった。
けれど。
色々言いたいことはあるけど、舐めるだけで手入れが出来てしまうとは。
「あの時は驚きすぎて、腰を抜かしてしまったよ」
新たに加わった6振りに割り当ての部屋へと案内する道すがら、こんのすけから聞き出していた三日月殿と鶴丸殿のこれまでや主が審神者になった経緯を話した。
「そんな無茶苦茶な救われ方した二振りは、主から無意識すぎる愛情をもらった二振りは、事ある毎に主にべったりなのさ」
笑って締め括ったけれど、暗く重い、でも真実の内容に反応は様々だった。
当然といえば当然なのだろう。ここまで聞いても最終的には安堵の表情をしていたのは救いだ。
これなら、彼らはこの本丸に馴染める。
これだけの数を受け入れたのには理由があった。
食欲以外の欲がない主は滅多に鍛刀しない。
となれば、そんな主が鍛刀した刀の数は決して多くはない。
新たに増える仲間の1部は、堕ちかけ処分に困ったり虐待されたりした刀剣男士だ。
彼らは戦場には出られない。
霊力だけは強い審神者、稀に現れる異様に霊力を持つ歴史修正主義者によってつけられた傷はなかなか直らないからだ。
ともなれば。
少ない立ち回りが可能な仲間たちで戦場を周回せざるを得ない。連携が上手くはなったが、結果、少数精鋭待ったなし。
悪いことではないけれど、さすがにいかがなものかと思っていた矢先だった。
如何なる理由であれ、仲間が増えたんだ。
先程、前任者に足の腱を切られた大倶利伽羅以外は出陣が見込めそうだ。嗚呼、なんとありがたい。
そう6振りに伝えると秋田、前田、今剣が酷く泣きそうな顔をして大倶利伽羅の腰布を握り締めた。
それを見かねた山姥切国広が視線を彷徨わせながらぽそりと言った。
「・・・なあ、どうにか、直らないか?」
その切実な問いに、すぐには答えられなかった。