第9章 【刀剣乱舞✕東京喰種】よだれ塗れの刀剣は主がお好き
呆然とする彼に追い討ちをかけるように、ざっざっと不可思議な拍子で近づく二つの足音。
「おかえり、主」
「やあっと帰ってきたな、待ちわびたぜ!」
嬉しそうに、でも優雅に笑みを浮かべながら近寄ってくるの三日月殿と彼と肩を組んでいる鶴丸殿。二振りを見た大倶利伽羅や他本丸の五振りは目を見開いた。
他の本丸の“彼ら”とは異なる姿に驚いたんだろう。
三日月殿は月の浮かぶ左目がなく眼窩が落ちくぼみ、紺地に金糸で月のような刺繍が施された眼帯で隠されている。
鶴丸殿は右足の膝から下がなく、代わりに木で作られた急ごしらえの義足がついている。どうも慌ててはめたらしく歩きづらいのか三日月殿の肩を借りているが。
それらは、正確に顕現されて、きちんと手入れがなされていればあるはずのもの。あって然るべきもの。
それがないのだ。
その理由は彼らが今のこの本丸ではなく、かつて他の本丸にいたことにある。
初めての主(審神者)のもとで、主が願った無謀な命(めい)を叶えられず伴わない戦果の対価にそれらを失った。
鶴丸殿は『三日月宗近』を手に入れられなかった。
三日月殿は主が『高戦績を納める素晴らしい審神者』になりたいと願ったが、思うような戦績を得られなかった。その結果、願いとは真逆な『負けばかりの弱く愚かな審神者』となった。
傲慢なその主らは、自分に才がないとは考えず、全ては刀剣男士が悪いのだと決めつけた。
二振りは『れあ』だから、虐待の対象から外されていたらしい。けれど、傷つく仲間を見て見ぬふりなんて出来ず、守るため身を差し出した。
それすら不満だったらしいその審神者らは、割って入った彼ら諸共のべつまくなしに精神や身体の虐待を繰り返した。
そんなことが続けば、最初は堪えていた彼らだったが心を病んでしまい、ついには刀解が叶わぬ程に魂が黒く穢れてしまっていた。
意思疎通が全く出来ず、目は虚ろで焦点もあっていない。
欠損したままの腕や瞳は傷口から腐り、澱んだ瘴気を纏って辺りに撒き散らしていた。
このままではと名乗りをあげた、怖いもの知らずの物好きな人間がいた。成功率十割だと有名で凄腕と称される邪祓い師である。
政府は諸手を挙げて喜んだが、その期待は一瞬で吹き飛んだ。
なんとその邪祓い師、あまりの瘴気の濃度にこれは敵わぬと匙を投げたのだ。