第9章 【刀剣乱舞✕東京喰種】よだれ塗れの刀剣は主がお好き
傍観する周りを無視した主のその行為で、ここまで興味本位で見物していた者達がどよめきだす。
勿論、少女も例に漏れず。
「えッ、にんげん、じゃな、い?」
ぽかりと空いた口のなんとみっともないことか。
どうやら少女は、喧嘩を売っていた相手が人外だったことに驚いているらしい。
「僕が大切にするね」
そう言うと主は赫眼(かくがん)を引っ込め、色とりどりに華やかな仮面を着け直した。
どうやら驚かすためだけに見せたらしく、見える口元から察するにしたり顔をしている。
驚愕に顔を染めたままの少女を放置して、主は既に気を失った大倶利伽羅を担ぎ上げる。
唖然として見ていた少女の刀剣男士うち一人の腕を引き、体格のいい男を担いでいるとは思えないほど、すきっぷをし出しそうな軽やかな足取りで僕らの方へ近づく。
その口元は穏やかに笑んでいる。
「かせん、かえろー」
先程の意地悪そうに揶揄う声とは打って変わって、柔らかないつもの声色に驚き、反応が遅れる。
「え、あ、うん」
「くりから、ケガ酷いから早く行こう」
完全に気を失いぐったりとしている大倶利伽羅を肩に担いだ主は、連れてきた刀剣男士を放し、僕の手首を掴むとやんわりと引っ張った。
「みんなも、かえろ」
ーーー
不穏な空気に満ちた演練場から、ようやく落ち着ける本丸に帰ってきた。
ほっと一息ついて、ちらりと主とを見ると既に仮面は外して楽そうにしている。
それにしても大所帯での帰還となってしまった。訳ありで、主の優しさゆえ出発時より明らかに増えた刀剣男士。
彼らの手入れについてとやかく言う気は微塵もないが、人数が増えた分、当然食費も嵩んでくる。
なんとか上手くやらねば。燭台切や堀川の方を見やれば、彼らもこちらを見ていたらしく、小さく頷かれた。
大倶利伽羅は目を覚ましていて、恥ずかしげに小声で降ろせと言ったようで主は彼を降ろしていた。
そしてようやく降り立って視界に入った僕らの姿を見て呆然としていた。