第9章 【刀剣乱舞✕東京喰種】よだれ塗れの刀剣は主がお好き
少女は腕を組み、顔を逸らして口を開いた。
苦しげに喘鳴を漏らす重傷の大倶利伽羅の頬に爪先を押し付けながら。
「そっそうね。そんな役立たずども、こっちから願い下げ。要らないわよっ」
きっぱりと言い切った少女は、これでどうだとでも言いたげに笑った。
捨て台詞のようなそれを聞いて、この少女の刀剣男士であろう5振りの表情が僅かに曇る。
役立たず。要らない。
この言葉の恐ろしさを知らないのか。
いや、知らないからこそ言えるのだろう。
どんなに頑張っても認めてもらえない、必要とされない。
行動も存在も否定される。
それがどれだけ泣き叫びたいほど苦しいかを。
きっとこの少女は、知らないのだ。
なんと幸せに生きてきたのだろう。
僕らの主とは酷く、全く反対に平和で幸せな世界(箱庭)で。
仄暗く彷徨う思考を手繰り寄せながら、ぼんやりと少女を見つめた。
「ぽい?」
ふと、主の声で我に返った。
少女の発した要らないの部分だけ理解出来た主は、要らない、つまり捨てるだと思ったようだ。
幼い表現に少女は、浮かべていた勝ち誇ったような顔を顰める。
「何よ?欲しがり?」
「?」
言葉の意味が分からなかったらしい主は、口をへの字にして首を傾げた。
「欲しいならあげるわ。大倶利伽羅なんて、それにコイツらもレアじゃないもの。要らない。弱っちいし」
言うや否や、ぷちんと何かが切れる音がした。
例えるならば、薄く繋がっていた霊力の糸が千切れたような。
音に気づかない少女は、ほとんど意識のない大倶利伽羅の頭をぐりっと踏んだ。
嗚呼、酷い。
動けない相手に何故そこまで酷いことが出来るのか。止めてくれ、可哀想じゃないか。
僕らの乞うような視線が主に届いたのか、主は少女に手を差し伸べた。
「じゃあ、ちょうだい」
ビキキッと硬い何かにヒビが入るような音と共に、主は目元を覆う仮面を外した。
あらわになった瞳の虹彩は赤黒く色を変え、目尻には力強く脈打つ血管が浮き出る。
それは赫眼(かくがん)、と呼ばれる喰種(ぐーる)の証。
あれほどこんのすけが口を酸っぱくして使ってはならないと言っていたのに、言いつけを守らず力を解放してしまった主。
これは、またしばらくは演練は出禁かな、とため息が出た。
それは僕だけじゃないみたいで、他の6人も額を押さえたり苦笑していたりだ。