第9章 【刀剣乱舞✕東京喰種】よだれ塗れの刀剣は主がお好き
「いじめかなぁ」
今の今まで静かに傍観していたから大丈夫かななんて思ったのが間違いだった。
完全に気配を消していた主は唯一見える口元を楽しげに釣り上げながら、大倶利伽羅を蹴り続ける少女の真後ろに立つ。
「うわっ!何?!」
「?」
何者かの気配を感じ取ったらしい少女は勢いよく振り返った。
驚いて当然だ。真後ろに立たれたら誰だって驚く。
跳ねる心音に胸を押さえる少女を不思議そうに見つめる主は、その心境が分かっていないらしい。
首を傾げる主を睨め付け、大倶利伽羅を足蹴にするのを一旦止めた少女は真後ろの存在を突き飛ばし距離をとった。
「何、なんか用」
「いじめ良くない」
突き飛ばされてもものともせず少女が言い終わるや否や間髪入れず、見当違いの返答をする主の口角は釣り上がっている。
それはこの状況を楽しんでいるのか、少女を蔑んでいるのか。
はたまたよく分からないけど面白そうだから声をかけただけなのか。
まあ、恐らく後者だろう。
まるで道化のように嗤う主が気に食わなかったらしい少女は、主を上から下まで舐めるように見ると顰めっ面をした。
「何なのアンタ。てか、何そのお面。気味悪っ」
吐き出されたその言葉は何気ない捨て台詞のようだけど、僕の耳には侮蔑にしか聞こえなかった。
共に主に向けられる軽蔑や嘲笑の視線を感じとった僕ら。
よくある慣れたことであれ、腸が煮えくり返りそうだった。
僕はどうにか堪えたが岩融や加州、乱は禍々しい殺気を隠すことなく少女へと差し向ける。
気配に敏感で、少女へと向けられた殺気に気づいた主が一度振り返るも、その時のみ笑ってみせ、手を振って取り繕っている。
よく分からないと首を傾げた主は少女へと向き直った。
「?、その子折れちゃうよ」
「だから何なの!アンタには関係ないでしょ!」
殺気にあてられた少女は青ざめながら無様に喚き散らすが、怯える少女とは裏腹に、ケロッとしている主はじりじりと間隔を詰める。
詰められた分だけ後ずさる少女。
しかし、床に横たわる大倶利伽羅に足を取られてよろけ、足は止まる。
もうそれ以上下がることは叶わない。
「折れてもいいの?」
近過ぎる主を呆然と見ている少女にぐっと顔を近づける我らが主。
少女はこぶし一つ分もないその距離に驚き、一瞬詰まるもぷらいどとやらからか堂々とした姿勢を崩さない。